『科学・ものづくり教育推進センター』
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理科離れ実相調査 ミニ・シンポジウム 2010
開催報告

愛知教育大学 教育学部 理科教育講座  牛田 憲行

 2月20日(土)13時30分より本学自然科学棟の物理系理科実験実習室で「理科離れ実証調査ミニ・シンポジウム」が開催され、県内の教員や学生ら43名が参加した。本シンポジウムは特色GP以前から毎年2月末に実施されており6回目にあたる。今回は、「小学校 教科「理科」の充実と実験授業改善に向けて」と名をうってこの1月に、小学校における理科教育のかかえる諸問題について現場理科担当教師の生の声を聞くアンケート調査を、愛知県下の小学校416校を任意に抽出して行い、209校から回答を得た。質問項目は23に及ぶが、
  ・理科実験室・準備室の整備管理状況
  ・キット教材について
  ・栽培園について
  ・理科消耗品の予算と購入の仕方
  ・実験の苦手な教員への対応
  ・科学・ものづくり教育推進センターの「教材創庫」(教材開発と教材の貸与を行う)への要望
  ・小学校理科教育全般について
の7項目は記述を求めるものであり、よせられた回答は、学校の現場で頑張っておられる先生方の“叫び”にも似た声がひしひしと伝わってくるものであった。この記述の部分は原文のまま資料(PDF。1MB)とした。[資料をお求めの方は科学・ものづくりセンターか牛田へ連絡を] A4で78ページに及ぶものでこれほど多くの「現場の生の声」は全国的に類がない。

調査結果報告の概略説明パート1(問1〜13)(約7分20秒)(続きを視聴する

 シンポジウムはまず松田学長の「科学・ものづくり教育推進に関する拠点づくり」の取り組みについての話から始まり、ついで今回のアンケート調査の責任者である理科教育講座の牛田から分厚い資料をもとに概略の説明がなされた。とくに、多忙化ゆえに理科室・準備室の整備に人も時間もない⇒教師の理科離れ を断つには、理科担当者に任せるのでなく、教員全員が夏休みにでも理科準備室の片づけをすること、『理科室のどこに何があるか読本』をつくることなどが提起された。消耗品の不足はどこも深刻で、実験に熱心な人ほど消耗品不足を訴えている、市によっては「入札制で安かろう悪かろう物品購入現象」が起こるが、購入は現場の判断に任せるべきこと。実験の苦手な教師に対して、夏休みを利用した実験講習会をとの声は23%、理科専任をふやすべきとの意見は42%にのぼった。ただ、理科専任教員を増やすことは児童にとっては良いが、実験の苦手な教師を増やすだけだという指摘もいくつかあること。「少なくとも、愛教大卒の者で理科嫌いの教員が出ないことを願います」という記述の重みは大きい。教材創庫につては小学校に準拠したものが少ないこと、現場は第二分野がそろってないのでそこの充実を求める意見がめだった。最後の小学校理科教育についての意見は傾聴に値するものがあふれ、中には7ページに及ぶものもあった。

1.報告書の紙作りの多忙化より 子どもと接する時間の多忙化を

 基調報告をした安城市立二本木小学校教諭 田中常和氏は、実際に教育現場で多忙化というものがどうして起きているのか、“人的支援の充実”の名のもとの一例を具体的に述べた。以前の学校と違って今の教育現場には、非常にたくさんの人が学校に入ってきている。特別支援教育支援員・情報教育支援員・日本語適応指導員・初任者研修後補充教員・初任者研修拠点校指導員・少人数指導員・外国語活動指導補助員・タガログ語通訳・ポルトガル語通訳 これらの人々が来てもらうための「計画書」「報告書」「勤務実態書」の膨大な事務書類を毎月教育委員会に提出しなければならない。それを作るのは教師で、報告書の紙ばかり作っている。「紙を書く多忙化は教育現場から取り除いていかねばならない」むしろ「子どもと接する時間が多忙化して欲しい」。給食費以外の様々な未収金の回収にも追われている。理科の消耗品の不足は深刻で、子ども一人当たりの理科消耗品費はたった100円。
 教材備品で非常に大きな問題になってきているのは、安城市では買うものを全部市へ一括して集め、市の担当者が各学校から出てきたものの一番最大公約数のものに決め、しかも数をそろえて入札制度にかけるという。そうなると最終的に入って来るものは“安かろう、悪かろう”が入ってくる。結果的に自分が注文したものと違うものが入って3年で壊れてしまう現実がある。手作りの器具を作っている例を実物で紹介。田中先生が牛乳パックで作った天秤では0.3gでも見分けがつく。実験助手はほとんど実験をやらない高校ではなくて、入れ替わり立ち替わり利用される小学校理科室にこそ、実験助手を導入すべきと強調した。次いで、名古屋市立原中学校の高田 廣司氏はアンケートから実験支援員の増加を望む声が一番多かったこと、一番重宝がられている支援員の重要性を事業仕分けで切った仕分け人たちの無知・無見識を強く批判。教科に手が回らない多忙化のもと、各小学校には理科の専門の人が必ず必要であることを強調。中学校の先生がその校区の小学校の薬品庫や理科準備室の整備などお互いの助け合いも提起した。

2.理科は“面倒くさい”から敬遠  学校の様子は 理科室をみればわかる

 今回、物理出身の校長・教頭の方々に「理科における教員支援」を中心に話していただいた。まず、蒲郡東部小学校校長の牧野 敏夫氏は、小学校の先生たちは本当に多忙だが、疲弊しきってはいない。目の前の子どもの話をするときの先生方の目の輝きというのはすばらしいものがある。小学校の理科、もちたくないなって思っている先生が最近、ここ10数年ぐらい段々増えているのは事実。高学年ほど傾向大。理科という授業はチョークと黒板だけでことたるものではないから。実験や観察は準備があって面倒くさいとやりたがらない先生もいる。理科専科の先生、理科支援員の先生が増えてもらうのはもちろんいいが、その前にちょっと待てよ、授業は担任の先生にやってもらう方が子どものためにもいいと思う。理科はやりだしたら面白いので、いやがらずにどの先生も取り組んでほしいというのが私の願い。その学校へ行って理科室なり、理科の準備室なりを見てみると、だいたい学校の様子が、理科の教育がどうなっているのかよくわかる。子どもはどうかというと、子どもはやっぱり理科好き、実験大好き、観察大好き、いろんな現象を本当に目を輝かして見、理科嫌いなんてところは小学校では無縁な関係にある。が、そういう子どもたちに、じゃあ、理科いやなところはなんだ、と聞くと、“話し合いだ”という。理科の学習で追究学習をやっていく一番大事なところのはずが、返ってくる言葉は、“めんどうくさい”。理科の今の授業時間数の中で、経験なり観察なりという時間が、ほんとにたっぷりと保障されておらず、じっくりと時間をかけてやれないから。子どもたちは理科が好きだから、その芽をつぶしてはいけない。これから先生になる方には、理科を学ぶとこんないいことあるよ、こんな自然現象の中でおもしろい、ふしぎなことあるんだよという、感動的なものを子どもたちに話していくことが理科嫌いや理科離れをなくす方法ではないかと結んだ。

3.先生たちの人間性も 理科室を見ればわかる

 討論で、教員歴31年目の女性教師から、多くの管理職は理科に理解がない、ご存じない方が多い。準備と後片付けにいかに大変かご存じない。転勤して理科室を見てこれはなんだ。理科室を見れば学校の様子わかるといいますが、先生方の人間性も分かる。後始末をしない、違う場所に置くなどなど。TTのとき、かっこいいと思って子どもの前で二酸化マンガンの中に塩酸を入れようと平気でやる先生もいた。やはり校区の中学校の先生がこられて薬品庫などの管理や指導をすべての担任にしていただきたいなどの意見があった。

4.理科は「総合的な学習」そのもの ほんとうの理科の楽しさをしらないから理科が嫌い

 次いで、尾張旭市立城山小学校校長の吉田 昌美氏が、パワーポイントを使って、小学校理科教育の現状と対応について報告。理科は本来「総合的学習」そのもの、しかし大幅削減の結果、おもしろいところをやるための時間がなくされてしまった。そしてそこの部分だけを総合的学習と位置付けて、さあなにか課題を見つけて解決しなさい といっても脈略がつながっていかない。本校でもアンケートをとって、教員に理科の授業は好きですかという問いには、半分をちょっと超えるパーセントで先生方は好き。では理科の授業得意ですかというと、いえ不得手ですというのが4分の3。好きだけど自信ない。これが本校の先生方の現状。
 これまでの長い経験からいえることは、小学校では理科の教員が少ない、理科の苦手な教員⇒理科備品の関連付けた整理整頓が出来ない⇒どこになにがあるかわからない、実験観察の準備が面倒⇒実験の回避・失敗⇒教え込み⇒嫌い の悪循環がある。施設・備品・予算への対応、今の時代十分な予算はない⇒工夫あるのみ  使い勝手の工夫・改良・修理 整理整頓  壊れておるものはすぐに修理することが大事。
 先ほどの消耗品費の問題、市町によって違うが、尾張旭の場合、学校へドンとくる、その消耗品費というのを校内で仕分けできる。ただ備品については市が一括してやっている。さきほどの安城と比べていいなと思うのは、現場の注文どうりのものが来ること。それと似たようなもの(が来る)というのはない。これはシステムの違い。
 教員への支援については、半分くらいの人は専科教員が欲しい、二番目に多かったのは実験補助員、支援員などあるといいというもの。しかし、やってみて理科の専科の方が良かったというのは13%しかいない。補助してもらってやってよかったというのが40%。
 理科専科が配置されると時間割に融通が利かなくなる。担任として理科に携わりたい、理科の授業は楽しい、ただ、実験指導には自信がないから、実験補助は欲しい。先生方に力量向上の気持ちは大きく、校内実験指導講習を夏休みに実施している。
 「現場では私たち理科教員がリーダーとして活躍して欲しいと期待している」とむすんだ。

5.自然、理科室が先生にとって遠いなあ   岡崎の研修を紹介

 最後に、岡崎市立本宿小学校教頭の宇都宮 森和氏が、岡崎の理科教育・理科研修の現状について報告。学校の中で事業仕分けをしなくてはいけない。やらなくてもいい仕事は切っていく必要がある。切ること出来なければ誰かが代わってやる。管理職があたる。モンスターに対しては教頭が一手に。理科の授業ではぎこちないものでも子どもたちの眼の輝きが違う。英語活動が入ってきて多忙化の今、困っていること、分からないことをお互いに言い合えることが大事。アンケートを読んで、理科担当者にはいろんな問題が背景にあって、かえって後ろ向きな意見が多いと思う。ザックというと、自然、理科室が先生にとって遠いと感じる。若い先生方見ると自然離れを感じる。岡崎市の取り組みは、1.理科の苦手な先生対象に「理科実験実習講習会」をやっていて46回目で、毎年50名ぐらい集まり、実際の教材作りをしている。2.各学校の理科の指導力を高めるため、中核の教員は理科主任。  教育委員会の行事として授業力アップセミナーを3日間開催。3.授業研修会を今年度8回、小学校の理科の苦手な先生対象 若手対象 4.岡崎には指導員制度があり、各教科2人づつ指導員がいて、各学校を回っている。年間20校回る。各教科の指導員は大変。5.岡崎の理科部には、理科ボランティアがいて色々手伝う。最後に、岡崎は大変だといわれていますが、先生方は生き生きとやっています、とむすんだ。

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